第548章:私を愛していない

「詩織……」階段から清らかな声が聞こえてきた。

黒川詩織は我に返り、顔を上げると坂本加奈が軽やかな足取りで降りてくるのが見えた。「ゆっくり降りて、赤ちゃんに影響があるわよ」

坂本加奈は照れくさそうな表情を浮かべた。「まだ妊娠したばかりだから、何も感じないわ」

黒川詩織は心から二人のことを喜んでいた。「お兄さんとあなたは、たくさんの苦労を乗り越えてきたわ。今、赤ちゃんができたんだから、気を付けないと。あなたが少しでも辛い思いをしたら、お兄さんは心配で死にそうになるわよ」

坂本加奈は彼女を押してリビングへ向かい、ソファに座らせた。「妊娠してから眠くなりやすくて。長く待たせちゃわなかった?」

黒川詩織は笑って首を振った。「ううん、私も今来たところよ。お茶もまだ飲み終わってないわ」