その言葉を聞いて、沢井恭子は心が沈み、トイレのドアを押し開けた。
数人の女性たちはトイレに人がいるとは全く思っておらず、驚いて飛び上がった。
しかし、彼女たちは沢井恭子を知らなかったため、見知らぬ顔を見て安心し、自分たちの話を続けた。
彼女たちは恐怖に満ちた表情の人を見て、誰かが彼女の額に触れた。「熱くないわ、普通よ!私の手のひらより冷たいくらい!」
しかしその人は顔色が悪く、「でも本当に具合が悪いの」と言った。
「怖がっているだけじゃない?心理的な暗示よ。大丈夫、この時代に、そんなに伝染病なんてあるわけないでしょう?」他の人たちは気にしていなかった。
彼女たちの様子を見て、沢井恭子は顔色の悪い女の子の前に直接歩み寄り、彼女の手首を掴んだ。
女の子は驚いて「何をするの?」と叫んだ。
他の人たちも次々と沢井恭子を見た:
「あなた誰?」
「ここがどこだか分かってるの?人に勝手に触れちゃダメでしょう!女同士でもダメよ!」
「早く菜莉子から手を離して!」
「……」
彼女たちの騒がしい声の中、沢井恭子は眉をひそめ、「菜莉子」という名の女の子から手を離し、直接言った:「あなたは感染しています。すぐに薬を飲む必要があります。」
菜莉子は呆然とした。
沢井恭子は彼女が自分の言葉を理解したかどうかを気にせず、言い終わるとすぐにトイレを出て、村上隊長を探しに行った。
伝染病はすでに広がっていた。村上隊長にすぐに対策を考えてもらう必要があった。
彼女がトイレを出た後、部屋の中の数人の女性たちは再び大きく安堵のため息をついた。
「あの人、おかしいんじゃない?誰なの?」
「思い出した!『仮面歌手』で見たことある。佐藤家の婚約者の細川奈々未じゃない?」
「え?じゃあ、医術なんて何も分からないのに、何を言ってるの?菜莉子、彼女に脅かされないで。本当に伝染病なら、もう数日経ってるのに、どうして今になって症状が出るわけ?」
「そうね……」
他の人たちも次々とうなずいた。
みんなは手の中の黒い小さな薬を見て、考えた末、飲まないことに決めた。
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