第217章 正体を現す

沢井恭子は携帯の振動を感じた。

取り出して見ると、山村治郎からだった。

すぐには出ず、撮影現場の様子を見た。

景山誠は玉座に座り、乱れた髪が少し狂気じみた印象を与えていた。五十嵐津由子をじっと見つめる瞳は漆黒で、感情を読み取ることができなかった。

監督の「スタート!」の声とともに、五十嵐津由子が一歩前に出て詔勅を手に取り、その内容を見て怒りを爆発させ、手近な硯を掴んだ。

五十嵐津由子の目に暗い光が宿り、景山誠めがけて投げつけた。

「バン!」

硯は景山誠の額に当たった。

景山誠は最初から最後まで、まばたきひとつせず、脚本の展開を知っていることへの恐れを克服し、完全に予想外の出来事のような表情を見せた。

非常にプロフェッショナルだった。

小島監督の彼への好感度が更に上がった。

「カット!素晴らしい!」小島監督が叫んだ。

現場のスタッフ全員がほっと胸をなでおろした。

佐藤和利がついに我慢できずに言った。「おじいちゃん、痛くない?」

沢井千惠も良い顔はしていなかったが、その言葉を聞いて説明した。「あれは小道具よ。プラスチック製だから痛くないわ。」

ただ、少し屈辱的ではあったが。

しかし、許容範囲内だった。

結局は撮影なのだから、先ほどヒロインが景山誠の前で跪いていたのだから。

一発OKで、沢井千惠と沢井恭子は安堵のため息をついた。

沢井恭子は電話に出た。向こうから山村治郎の声が聞こえた。「橘様、大輝さんが何であなたに怒っているのかわかりますか?今、藤原夏美から真相を聞きました。」

沢井恭子は撮影現場の様子を見ながら、何気なく尋ねた。「なぜ?」

山村治郎は直接言った。「彼女が言うには、あなたが開発した毒で、大輝さんが昔最も愛していた女性を殺したそうです。」

沢井恭子はその言葉を聞いて、瞳孔が急激に縮んだ。

半開きだった涼しげな瞳が一瞬で見開かれ、信じられない様子でありながらも、何かを悟ったような表情を浮かべた。

そういうことだったのか。

だから佐藤大輝は5号神経毒素が彼女の製造したものかを確認した後、突然態度を変えたのか、そういうことだったのか。

彼女は顎を引き締め、自分でも気づかないほど掠れた声で言った。「彼が好きだった人って、誰?」

「……藤原夏美は言いませんでした。」