五十嵐紀代実は深いため息をもう一度つくと、温井琴美の方へ歩いていった。「私は…」
言葉が終わらないうちに、二つの声が聞こえてきた。
「ちょっと待って」
「待ちなさい」
一つ目は白井隆司からだった。
二つ目は沢井恭子からだった。
二人が話し終わると、お互いを見つめ合った。
白井隆司は眉を上げた。
どちらにしても、この五十嵐さんと沢井さんは前回、自分の祖父を助けてくれた。だから彼は手助けするつもりだった。彼も書道協会のメンバーで、副会長も務めていた。
浦和で書道のできる人を何人か急いで呼ぶのは、比較的簡単なことだった。
しかし、沢井さんが口を開いたので、彼はもう何も言わず、口を閉じた。
沢井恭子は彼が黙ったのを見て、やっと視線を戻した。
傍らで、五十嵐津由子はすでに我慢できずに急かした。「何を待っているの?今の光が一番いいのよ。午後や夕方になったら、光が悪くなって、望む効果が撮れなくなるわ!もたもたしないでよ!」