第266章 5年前の彼ら

沢井恭子は車を運転しながらのんびりと、浦和音楽学院に向かった。

彼女の車は学校に登録されていなかったため、五十嵐孝雄のように直接校門に入ることができず、学校外の駐車場に停めて、徒歩で学内に入った。

大学のキャンパスは活気に満ち溢れており、それは彼女に何年も前、まだ学生だった頃、年下の恋人佐藤大輝との恋愛を思い出させた。

彼女は大学に通っていた。

海外でミッションがあったとはいえ、国内の経歴には全く問題がなかった。

当時通っていた海浜大学は国内トップクラスの大学で、時々大輝を学校に誘ったが、彼はいつも何かと用事があり、外で会うことを提案した。

そのため、彼が失踪した後、彼女が恋愛関係を証明しようと探し回っても、誰一人として証人を見つけることができなかった理由がここにあった。

彼は彼女の人生に一度も入ってこなかった。

そして彼女も彼の友人を一人も知らなかった。

当時、彼女には多くの秘密があり、深く知られたくなかったため、佐藤大輝のプライバシーも尊重し、彼の職場を訪ねることも、彼の家を訪れることもなかった。

二人は最も親しい他人のようで、彼が消えてから、彼女は自分が彼のことを本当には理解していなかったことに気付いた。

今考えると、あの時の彼は実は彼女を警戒していたのだろう。

そんなことを考えながらキャンパスを歩いていると、突然見覚えのある後ろ姿が目に入った。佐藤大輝??

彼は情報を確認しに行ったはずでは?

なぜここにいるの?

そう思って追いかけようとした時、突然学生が彼女の前に立ちはだかり、興奮した様子で声をかけてきた:「あ、あの、細川奈々未先生ですよね?」

沢井恭子:?

その学生の声があまりにも甲高かったため、周りの全員が振り向き、そして一斉に集まってきた!

「本当に細川奈々未先生だ!」

「すごい!私『仮面歌手』見ました!」

「わあ、細川先生、私ファンです、憧れの存在です!」

「……」

人々に囲まれた中、沢井恭子が群衆の隙間から前を見ると、佐藤大輝は既に角を曲がって姿を消していた。

見間違いだったのかしら?

沢井恭子は追いかけて確認したかったが、学生たちがあまりにも熱心で、行く手を阻んでいた。