第286章 あなたに嫌われるのが怖い

沢井恭子は頷き、真っ直ぐに階段を上がった。

この邸宅の間取りは海浜市のものと似ていた。階段を上がって二階に着くと、注意深く見回して書斎らしき場所を見つけ、そこへ向かってドアをノックした。

「誰だ?」

部屋の中から佐藤大輝の低く厳しい声が聞こえた。

沢井恭子の後を追ってきた執事は、これを見て心の中で「まずい!」と思った。

ご主人は今日、重要な会議があるため、誰にも邪魔をさせないよう言い付けていた。佐藤さんが来ても同様だった。

先ほど佐藤さんと話をしていて、沢井さんへの注意を忘れてしまっていた。

ご主人は怒り出すだろうか?

そう考えていると、沢井恭子が淡々と「私よ」と言った。

その言葉が落ちるや否や、書斎から椅子を動かす音が聞こえた。

しかし足音はドアに向かってではなく、奥へと向かっていった?