沢井恭子はさっと立ち上がった。
なんという偶然だろう?
二人がここで出会うなんて。
後ろから、五十嵐奥さんが彼女を呼んでいた。「橘さん、このドレス素敵よ。あなたも試着してみたら?」
しかし沢井恭子は言った。「おばさま、ちょっと用事があって出かけてきます。」
彼女が佐藤大輝の方向に二歩進むと、佐藤大輝は何かに気付いたように急に振り向いた。
その瞬間、二人の視線が合った。
沢井恭子は佐藤大輝の瞳孔が縮むのを見た。彼もここで彼女に会うとは思っていなかったようだ。
二人はしばらく動けなかった。
そのとき、太鼓腹のスーツ姿の男性が、幹部らしき数人を引き連れて、佐藤大輝と山村治郎の前に現れた。
山村治郎はすぐにその太鼓腹の男性に向かって深々とお辞儀をし、握手を交わした。そして佐藤大輝を指差して何か言うと、その男性は佐藤大輝に向かって手を差し出した。