江口沙央梨が質問している間、原詩織はクラス全員が自分を見ているように感じた。
それで原詩織はますます口を開くのが難しくなった。
しばらく躊躇した後、原詩織は江口沙央梨に言った。「沙央梨さん、今ちょっと気分が悪いので、保健室に行ってきたいんです。」
原詩織は質問を避け、すぐに教室の外へ向かって歩き出した。
彼女には認めることも否定することもできず、とりあえず言い訳をして離れるしかなかった。
教室を出た原詩織は、頭の中が混乱していた。
ちょうどそのとき、メッセージを見た秋田緑が原詩織を探しに来た。
「詩織、大丈夫?掲示板の件はどういう状況なの?」秋田緑は切迫した表情で尋ねた。
原詩織は首を振り、落ち込んだ様子で、この件についてどう話せばいいのか分からなかった。
「まあ、とりあえず場所を変えて話そう。」
学校の廊下は話をする場所ではない。
秋田緑は原詩織を保健室へ連れて行った。そうすれば、先生に見つかっても説明がつきやすい。
保健室の休憩室に着くと、秋田緑は原詩織に先ほどの話を続けるよう促した。
「詩織、一体どうなってるの?何か困ったことがあったの?」
原詩織は俯いたまま、秋田緑の問いかける目を直視せず、しばらくしてから頷いて認めた。
「あの人は、本当に私の父親みたい。」
「みたい?」
「私がまだ小さい頃、他の女性と逃げてしまって、もう十数年会っていないの。」
原詩織の言葉は、秋田緑の記憶を呼び覚ました。
原詩織の境遇は秋田緑と似ていた。
二人とも一人親家庭だった。
家庭の不幸は、どちらも父親の不倫が原因だった。
唯一の違いは、原詩織はその後母親と暮らすことになり、秋田緑は父親と暮らすことになったことだ。
原詩織の悲しそうな表情を見て、秋田緑は珍しく優しい態度を見せた。
彼女は手を伸ばして原詩織の肩を叩いた。「落ち込まないで。あなたの気持ち、分かるわ。父親がクズなのは私たちには選べなかったことだし、全部あいつらのような屑のせいよ!」
原詩織は頷いた。「この件で私を見下さないでいてくれて、ありがとう。」
「何言ってるの?こんなことで私があなたを見下すわけないでしょ。私、秋田緑がそんな人間に見える?あなたは私の親友だって言ったでしょ。親友同士、こんなことで互いを嫌ったりしないわよ!」