第356章 自分で頑張りたい

「私は、自分の力でやっていきたいの」

佐藤和音は少し躊躇した後、佐藤正志に答えた。

自分の力でやっていくことは、自立の表れだ。

彼らの可愛い妹は自立した。

でも、早すぎる自立だった。

彼女はまだ15歳で、両親や兄に甘えることができる年齢なのに。

傷つけられたり、悔しい思いをしたりした時には、泣く権利だってあるはずなのに。

それなのに「自分でやりたい」の一言。

人が最初に「自分でやりたい」と反応する時、それは心の中で、もう頼れる人がいないということを意味している。

あるいは...かつて頼れると信じていた人々に、失望させられたのかもしれない。

そう、彼らは彼女を失望させたのだ。

あの出来事以来、彼女は自分を信じることを選んだ。

あの時、ホテルの映像が消失したことを彼らに告げ、調査を依頼する機会があったはずだ。

しかし彼女はそうしなかった。一人で証拠を見つけ出し、すべてを解決することを選んだ。

信頼できない人に対して、もう何かを求めることはしない。

長い沈黙の後、佐藤正志は和音に言った:「和音、お兄さんはずっとここにいるよ。必要な時はいつでも、お兄さんを頼っていいからね」

佐藤正志はもう和音に無理強いできなかった。言えるのは、それだけだった。

いつになったら、和音の信頼を取り戻せるのか、それすら分からなかった。

信頼の崩壊は一瞬で起こる。

しかし信頼の再構築には、とても長い時間が必要なのだ。

和音は「うん」と一言答えて電話を切った。

電話の向こうの佐藤正志は、ツーツーという音を聞きながら、しばらく我に返れなかった。

どれくらい時が過ぎたのか、鈴宮玉城からの電話で佐藤正志の思考は現実に引き戻された。

「誠也若様、良い知らせと悪い知らせがありますが、どちらを先に聞きたいですか」鈴宮玉城はいつものように話を引っ張った。

「無駄話はいい」

「誠也若様、今日のお声、なんだか変ですね?風邪でも?」

「無駄話はするなと言っただろう」

「はいはい、では直接申し上げます。良い知らせは、ご依頼の調査はすべて完了しました。悪い知らせは、この件に関連するハッキングの痕跡が一切見つかりませんでした」

「ハッキングの痕跡がない?」