そのとき、流麗なラインを持つ真っ赤なメルセデスがゆっくりと病院の入り口に停車した。
車のドアが開き、高級なオーダーメイドのスーツを着た馬場依子が花束を抱えて降りてきた。
「お嬢様、降りられる時は私にメッセージをください。前の駐車場でお待ちしております」と運転手は窓を下ろして馬場依子に丁寧に言った。
馬場依子はそれを聞いて手を振った。「先に帰っていいわ、待たなくていいから」
そう言うと、運転手の返事を待たずに足早に入院棟へと向かった。
エレベーターで六階に直行し、馬場依子は笑顔で手の中の花束の香りを嗅ぎながら、奥のVIP病室へと向かった。
「お前、正気か?万年筆一本のために?」
馬場依子がドアを開けようとした時、中から藤井空の怒鳴り声が聞こえてきた。「命を落とすところだったんだぞ!たかが万年筆一本のために!」