第146話:私は本当にあなたが心配だった

そのとき、流麗なラインを持つ真っ赤なメルセデスがゆっくりと病院の入り口に停車した。

車のドアが開き、高級なオーダーメイドのスーツを着た馬場依子が花束を抱えて降りてきた。

「お嬢様、降りられる時は私にメッセージをください。前の駐車場でお待ちしております」と運転手は窓を下ろして馬場依子に丁寧に言った。

馬場依子はそれを聞いて手を振った。「先に帰っていいわ、待たなくていいから」

そう言うと、運転手の返事を待たずに足早に入院棟へと向かった。

エレベーターで六階に直行し、馬場依子は笑顔で手の中の花束の香りを嗅ぎながら、奥のVIP病室へと向かった。

「お前、正気か?万年筆一本のために?」

馬場依子がドアを開けようとした時、中から藤井空の怒鳴り声が聞こえてきた。「命を落とすところだったんだぞ!たかが万年筆一本のために!」

夏目沙耶香も怒りの表情でベッドに横たわる林駆を見つめていた。彼女は今、藤井空の怒りを十分に理解していた。昨夜、ロープが炎で切れた瞬間、彼らがどれほど絶望したか、神のみぞ知る。

彼らは一時、林駆と馬場絵里菜が中で亡くなったと思い込んでいた。

しかし林駆は一本の万年筆のために、命を落とすところだった上に、馬場絵里菜まで巻き込むところだった。

皆一緒に育ってきて、林駆は高遠晴のような冷静で自制心のある人間ではないにしても、命がけの場面でこんな愚かな行動をとるような人間ではなかったはずだ。

「すまない」林駆は誠実な口調で言った。

今になって自分も気づいたようだった。昨夜の自分は確かに軽率すぎた。たとえその万年筆が自分にとってどれほど意味深いものであり、馬場絵里菜からの贈り物だったとしても。あの状況で命を顧みず、皆を心配させ、さらには馬場絵里菜まで巻き込むところだった自分は確かに間違っていた。

林駆も後悔の念を抱いているようだったので、夏目沙耶香はこれ以上責めるに忍びなく、藤井空の肩を叩いた。「もういいわ。林駆も自分の過ちに気付いたんだから、あなたも怒りを収めて。こうして無事だったんだから……」

藤井空はまだ怒りが収まらず、林駆を睨みつけた。「本当に運が良かったんだ。馬場絵里菜が危険を冒して戻って来てくれなかったら、今頃俺たちは墓前で泣いていたところだぞ」

藤井空の言葉が終わるか終わらないかのうちに、病室のドアが外から開かれた。