馬場依子と吉田清水の二人は、その言葉を聞いて心が震えた。
KATEの万年筆と言えば、世界的な高級ブランドで、一本数千円から数万円もする。
二人とも家庭は裕福な方だが、そんな高価な万年筆は使えない。
馬場依子が林駆に限定品を贈ったのに、林駆がなくしてしまったなんて……
考えただけでも心が痛む。
「林駆さんも不注意すぎるわ。あんな高価な贈り物を、どうしてなくすことができるの」吉田清水は馬場依子のことを気の毒そうな表情で言った。
鈴木玲美もうなずき、逆に馬場依子を慰めた。「彼も故意じゃないんだから、依子、気にしないで。きっと林駆さん自身もすごく後悔して自責の念に駆られているはず。だから午前中ずっと笑顔がなかったのね」
鈴木玲美は林駆が午前中ずっと暗い表情をしていたことを、馬場依子の話と結びつけた。
午前中の林駆の態度を思い出すと、馬場依子の胸は苦しくなった。でも表情には出さず、説明もせずに、ただ軽くうなずいて言った。「そうね。私が気にしすぎると、林駆さんがもっと自責の念に駆られてしまう。万年筆一本のことよ。今度機会があったら、また新しいのをプレゼントすればいいわ」
馬場依子のそんな思いやりの心に、吉田清水と鈴木玲美は即座に称賛モードに入った。
「依子って本当に誰のことも考えてくれるのね」
「依子は優しすぎるわ。林駆さんに甘く見られないか心配」
……
馬場依子は内心で友達の褒め言葉を楽しみながら、顔では恥ずかしそうに頬を赤らめ、もう言わないでと二人に頼んだ。
偶然にも、わずか二時間の授業の後、馬場依子が林駆にKATEの万年筆をプレゼントしたという話が、どういうわけか広まってしまった。
こんな高価な贈り物は、特別な関係でもなければ贈れないし、林駆も心安らかに受け取れるはずがない。
二人の関係は確実なものとなり、林駆は昼食も喉を通らなくなった。
「この話は君の誕生日を祝った私たちだけが知っているはずだ。私たちが噂を広めるようなことはしていない」藤井空は食事をしながら、急いで弁明した。
高遠晴も口を開いた。「夢子のことは分かっているだろう。彼女は自分に関係のないことにはほとんど興味を示さない」
高遠晴は禁欲的で冷淡な表情をしているが、柳澤夢子のことはよく理解していて、すぐに彼女の弁護をした。