第206章:過去(2)

馬場長生が細田登美子母子を捨てて去った時、細田登美子は妊娠一ヶ月余りで、その時、母親の腹の中にいた馬場絵里菜はこの全てを知る由もなかった。

馬場輝はまだ三歳で、物心がつかない年齢だったため、馬場長生についての記憶は全く残っていなかった。

失意の細田登美子は馬場輝を連れて馬場長生との同居していた家を離れ、足立区で生活を始め、満期を迎えて娘を出産し、馬場絵里菜と名付けた。

一方、馬場長生は去った後すぐに京都へ向かい、若かりし頃の馬場長生は端正で教養があり、橋本好美は一目で彼に心を奪われ、両親の取り持ちのもと自然な流れで結婚し、全てが順調そうに見えた。

しかし結婚後、橋本好美は馬場長生の冷たさと距離感を感じるようになった。他人がいる時だけ形だけの笑顔を見せ、二人きりの時は週に二、三回の生理的な関係以外、ほとんど自分から話しかけることもなかった。