彼らの話を聞きたくなかった伊藤春は、話題が終わるのを待ってからお茶を持って出てきた。
顔には相変わらず笑みを浮かべていたが、少し誠意が欠けていた。
声をかけた。「さあ、お茶をどうぞ。」
「ありがとうございます、お姉さん。」細田繁は急いで立ち上がり、伊藤春の手から茶器を受け取り、そして言った。「お姉さん、もう気を遣わないでください。私たちはすぐに帰りますから。」
伊藤春は頷いて、細田仲男の隣に座った。
鈴木夕はお茶を手に取ったが、飲まずに唇を少し噛んでから、細田仲男を見て話し始めた。「お兄さん、実はこうなんです。今日私と繁が来たのは、一つはお兄さんとお姉さんに会いに来たことと、もう一つは、相談したいことがあってなんです。」
細田仲男はそれを聞いて眉を上げ、心道やはり何か用があって来たのだと思った。
細田繁も驚いた様子で、明らかに鈴木夕は事前に何も話していなかった。突然の発言に、細田繁は緊張し始めた。
何の話だろう?
細田繁が心配していると、細田仲男は直接尋ねた。「何の用件だ?」
細田仲男には威厳があり、しかも笑顔も見せないため、鈴木夕は少し怖気づいていた。しかし、ここまで来て、あれだけの贈り物も買ってきたのだから、何も言わずに帰るわけにはいかない。
そう考えると、鈴木夕は心を決めて切り出した。「お兄さん、お願いがあるんですが、繁をお兄さんの会社で働かせてもらえないでしょうか?」
皆が反応する前に、鈴木夕は急いで付け加えた。「管理職にしてくれとは言いません。どんな仕事でも構いません!あれだけ大きな内装会社なんですから、彼にできる仕事があるはずですよね?」
細田繁はそれを聞いて安堵のため息をついた。何かと思ったら、結局は仕事を探してくれということだった。
細田繁は怠惰な生活に慣れていたため、顔を背けて口をとがらせた。
細田仲男も特に驚いた様子は見せず、断ることもせずに、細田繁に視線を向けてゆっくりと口を開いた。「俺が助けたくないわけじゃない。前に母さんからもこの話は聞いていた。でも繁本人が働きたがらないんだ!」
お母さんは一度だけでなく、何度も話を持ちかけてきた。母親の頼みなら細田仲男は断るはずもなかったが、細田繁は死んでも働こうとしなかった!