食事の後、数人は赤ワインを1本飲んだだけで、お酒で顔が赤くなりやすい高橋桃が少し赤くなった以外は、他の人は全く異常がなかった。
馬場絵里菜はレジに向かい、ポケットから現金の束を取り出して、「すみません、お会計をお願いします」と言った。
言い終わると、馬場絵里菜は本能的に横を向き、そこに馬場長生が立っているのを見た。
そして彼の後ろには、無表情の馬場宝人がいた。
馬場宝人も馬場絵里菜を見かけ、一瞬驚いて目に色が浮かんだが、冷静を装って反応を見せず、ただ馬場絵里菜と視線を合わせるだけだった。
二人はマカオで何度か出会っており、その時この少年は馬場長生と一緒に現れていたので、彼が馬場長生の息子だと分かっていた。
しかし馬場宝人は馬場絵里菜が東京の人だとは知らなかった。
馬場絵里菜は彼に微笑みかけ、友好的な挨拶とした。
この弟は自分より2、3歳年下に見えるが、いつも大人びた態度を取っている。それでも馬場絵里菜の心の中では、馬場長生や馬場依子よりもずっと好感が持てた。
可愛らしい。
馬場宝人はクールを装おうとしたが、心の中では馬場絵里菜に挨拶したい衝動があり、二つの感情の間で引き裂かれ、無理やり口角を上げようとした表情は、ぎこちなくも面白かった。
馬場絵里菜はその様子を見て、さらに彼のことが好きになった。
仕方がない、生まれつきの弟好きで、可愛い弟を見ると母性本能が溢れ出してしまう。
もちろん、馬場絵里菜の心の中で、世界で一番可愛いのは隼人に他ならない。
一方、傍らの馬場長生は、まるで馬場絵里菜を空気のように扱い、彼女を見ることも、挨拶することもなかった。
馬場絵里菜も当然彼に話しかけようとはしなかった。器の小さい男だ。
「絵里菜、みんなで相談したんだけど、午後にカラオケに行くことになったわ!」夏目沙耶香が突然駆け寄って、馬場絵里菜の肩を抱きながら言った。
その一言で、ついに馬場長生の注意を引いた。
彼は少し首を傾げ、目に疑問の色を浮かべながら、笑い合う馬場絵里菜と沙耶香の二人を見つめた。
絵里菜?
確か登美子が何気なく娘の名前を話した時、絵里菜と言っていたはずだ。
しかし馬場長生は自分がその二文字を本当に聞いたのか、それとも聞き間違えたのか確信が持てなかった。