第807章:話がある

言い終わると、馬場宝人はそのまま階段を上がった。

その素っ気ない態度に、馬場依子は足を踏み鳴らして怒り、振り返って橋本好美に不満げな顔をして言った。「ママ、見てよ、宝人ったら……」

自分の姉がスターになるというのに、他の人の弟だったら、嬉しくて誇らしげに尻尾を天まで振り上げるんじゃないの?

彼女の弟はというと、何の反応もなく、応援の言葉さえも心がこもっていない。

橋本好美はその様子を見て、思わず口元に笑みを浮かべ、慰めるように言った。「まあまあ依子、宝人の性格はあなたもよく知っているでしょう。彼はこういうことにあまり興味がないのよ。でも、ママは彼が心の中であなたのことを喜んでいるって知っているわ。」

馬場依子は口を尖らせたが、実の弟に本気で怒ることもできなかった。それに母親の言う通り、弟は物心ついた時からこんな感じで、興味のないことには一切目もくれなかった。

「さっき言っていたけど、この映画は有名な小説が原作なの?」と橋本好美が突然尋ねた。

馬場依子はそれを聞いて急いで頷いた。「うん、作家は黒木峰って言って、今一番人気のあるミステリー小説家なの。宝人、彼のファンなのよ。」

「ママは普段家にいて暇だし、後でその小説を見せてくれない?ママも依子がどんな役を演じるのか知りたいわ。」と橋本好美は優しい口調で言った。

母親が自分の出演する映画に興味を持ってくれたことに、馬場依子は大喜びし、すぐに階段を駆け上がりながら言った。「ママ、待っててね。今すぐ持ってくるから。」

橋本好美はその様子を見て、馬場依子の後ろ姿に愛情のこもった笑みを浮かべた。

しかし、徐々に彼女の顔から笑顔が消え、視線はリビングの壁にかかった芸術的な時計に落ちた。

もう夜の9時半。今夜も長生は帰ってこないだろう。

翌日、高遠晴がバッグを背負って学校に入ると、突然現れた人影に行く手を阻まれた。

「晴!」

柳澤夢子の可愛らしい顔には笑顔が満ちていて、手には精巧な包装袋を持って高遠晴に差し出した。「ほら、特別にあなたのために買ってきたの。」

高遠晴は視線をその包装袋に落とし、自分がいつも好んで食べているスイーツ店のものだと分かると、頷いて手を伸ばして受け取った。「ありがとう。」