大田空は一瞬驚いて、「貸し切りですか?」
「はい」店員は頷いて、「入口に通知が貼ってありますが、お気づきにならなかったのかもしれません」
これが一橋景吾が大田空をWだと思った理由だった。
なぜなら、今日のカフェは一般客を受け付けていなかったから。
閉店の通知を見た人は皆、立ち止まる。
Wを除いて。
大田空は数歩後ずさりし、確かに店の入口に通知があるのを見た。「申し訳ありません。気づきませんでした」
言い終わると、大田空はカフェを後にした。
この光景を見て、一橋景吾は呆然とした。「ちょっと!なんで帰っちゃうんだ!」
「彼がWじゃないからだよ」と黒武が言った。
一橋景吾は風船から空気が抜けたように、「...興奮しすぎた」
しかし。
一橋景吾はすぐに立ち直った。大田空がWでなくても、Wが若い女性とは限らない。
ましてや小林綾乃である可能性も低い。
Wが男性なら。
彼の勝ちだ。
これら全てが山下言野の掌握の内にあるようだった。彼はポケットからタバコを取り出し、次にライターを取り出した。
パチッ。
冷たいライターから青白い炎が立ち上がった。
その時。
カフェに再び一人の人影が入ってきた。
その人物は細身で。
ゆったりとした白いパーカーに黒いデニムのホットパンツを履き、長くまっすぐな脚は白く輝くように美しく、まるで精巧な陶器のよう。
パーカーのフードを被っていて、監視カメラからは顔がよく見えなかったが、明らかに。
女性だった。
しかも抜群のスタイルの女性。
黒武は目を見開いて、信じられない様子で「うわっ!女だ!」
一橋景吾は画面を一瞥して、「考えるまでもない、また間違えて入ってきただけだ!通知に気付かなかったんだろ」
先ほどの大田空と同じように。
そのとき、店員が女性の前に歩み寄り、彼女の行く手を遮って、申し訳なさそうにカフェが貸し切られていることを説明した。
それを聞いて、女性は淡々とした口調で「8番テーブルの方と約束があります」と言った。
8番テーブル。
それを聞いて、店員はすぐに笑顔で腰を曲げ、「Wさま、こちらへどうぞ」
女性は店員の後に続いた。
この光景を見て、いつも冷静な山下言野でさえ、手に持っていた未だ燃え尽きていないタバコを灰皿に押し付けた。
監視カメラの画面を鋭い眼差しで見つめた。