035 矜にして争わず、拾うものは拾う

安藤智秋は中村家では常に影の薄い存在だった。

中村家の本邸にはめったに来ず、物静かで上品、文人としての誇りが強かった。

中村家ではほとんど存在感がなかった。

中村修はこの結婚に満足していなかったため、この婿のことをあまり気にかけていなかったが、気に入った孫娘ができてからは変わった。

安藤智秋が中村修を訪ねたのは、七年前の安藤秀秋の件の時だけだった。

これほど長い年月の中で、初めて中村家でこのような話し方をした。

中村修でさえ、彼の態度に大変驚いていた。

「もういいわ」中村綾香はテーブルの上の煙草を取り出し、一本抜いて火をつけた。「お父さん、実力で負けたことは認めないと。私は彼ら二人を見下げているわけじゃないわ」

中村優香は中村綾香を見上げ、唇を噛んで「お母さん...」

「もういい」中村修はもう意見を述べず、立ち上がった。「優香、私たちと平安苑に行こう。先生がもうすぐ到着する」

彼は中村綾香を連れて行かなかった。

人々が去った後。

安藤智秋はようやく上着のポケットから薬の箱を取り出し、二錠出した。中村綾香は彼に水を一杯注ぎ、眉をひそめた。「この件は気にしないで。あなたも知っているでしょう、優香のことはずっとお父さんが管理してきたのよ」

中村優香は中村家唯一の後継者で、生まれてすぐに秘書長が抱いて中村修に育てを任せた。

二人は全く口出しできなかった。

二人の向かいで、秘書長は淡々と彼らを一瞥し、それから出て行った。

「優香をあなたの父に任せたことを少し後悔している」安藤智秋は水杯を置き、眉間を押さえた。

「もう考えないで。でも...」中村綾香は姿勢を正して座り直し、安藤智秋を見つめながら思案げに言った。「白川華怜は本当に安藤家の人に似ているわね。優香は全然似ていないのに」

「そんな話は二度と言わないでくれ。華怜を育てようとする話も言わないでくれ。彼女は望まないだろう」安藤智秋は薬を飲み込み、薬箱をしまいながら首を振った。「それに優香に聞かれたらまた騒ぎになる」

彼には感じていた。中村優香は白川華怜に対して強い敵意を持っていることを。

しかし二人の間には明らかな対立はなかったのに。

「はいはい、他の人の前で言ったことなんてないわ」中村綾香は降参のポーズをとった。「でもあなたの姪は本当に望まない...わかったわ、もう言わない」