白川華怜:「……」
尊重。
東区、旧市街。
白川華怜は木村翼を連れて車を降りた。
車内。
田中恭介は白川華怜の前では何も言えなかったが、彼女が降りると明石真治の方を向いて、声を潜めて言った。「彼女にそんなに説明しても無駄だよ」
この白川さんに分かるはずがない?
最近、吉田様の推薦で田中家で順調に出世し、明石真治のボディーガード職を狙っていた彼は、内心かなり調子に乗っていた。
ほとんど我を忘れるほどに。
明石真治は冷酷な表情で言った。「田中恭介、言動を慎め」
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白川華怜は今日早めに来たが、書道協会はまだ開いていなかった。
路傍の屋台は二、三軒しか開いていなかった。
白川華怜は木村翼に鶴の形の飴細工を買い、木村翼が飴を食べるのを待ちながら、道場が開くのを待った。
ついに、金子館長が出てきたところを捕まえて、彼女は単刀直入に切り出した。「金子館長、道場を再開する予定はありませんか?」
このプランについて、白川華怜は道場を見つけた時から構想を練っていた。
この二ヶ月間、彼女は多くの道場に関する資料を調べ、藤野悟志たちに形意道場のことを聞き込んでもらい、道場の閉鎖と今後の展開について初期プランを立てていた。
白川華怜の言葉を聞いて、金子武人の表情は少しも変わらなかった。
ただ彼女を一瞥しただけだった。
彼はまだ四十歳前後で、目尻と眉間に深いしわがあった。「申し訳ありません、仕事に行かなければ」
「これが私の初期プランです」白川華怜は一枚の紙を金子武人に渡し、軽く微笑んで言った。「時間があればご覧ください」
彼女は物憂げな杏眼を持ち、瞳は黒く、線は優しく、笑うときは何気なく、無関心そうでありながらも言い表せない魅力があり、思わず彼女を信じたくなるような雰囲気があった。
金子武人はその一枚の紙を受け取った。
そして黙って近くの工事現場へ仕事に向かった。
遠くのバス停の近くに、一台の乗用車が停まっていた。
後部座席で、男は窓越しに陰鬱な眼差しで女性を見つめながら、ゆっくりとタバコを取り出した。「あの金子武人が道場を売らない理由が分かったよ。新しいバックを見つけたってわけだ」
運転席の人は驚いて聞いた。「上原秘書、あの方をご存じなんですか?」