彼はまだ諦めていなかった。
「木場院長の材料が足りなければ木村坊ちゃまに頼むことになるが、彼の心を動かすようなものを出さない限りは無理だ」渡辺颯は煙草の灰を払いながら首を振った。「彼が本当にそんなに接しやすい人なら、院長たちの中での清流とは呼ばれないだろう」
どの勢力にも加わらず、ただ研究に没頭している。
彼自身の業績、受賞したメダル...田中当主でさえ彼に会うと丁重に接する。
「鷹山稔のことはどうするつもりだ?」松本章文は本題を思い出した。
渡辺颯の瞳が冷たく光った。「うちの叔父さんの情報網は早いから、明日にはきっと私がチャールズと交渉したことを知るだろうな」
もし彼が予定より早く協力が始まったことを知ったら...
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安藤宗次の庭。
今日は土曜日で、木村翼は終日安藤宗次と一緒にいた。彼は足を揺らしながら安藤宗次の図面を見ていた。
白川華怜が戻ってくるのを見て、安藤宗次は彼女の髪を見た。「どこに行ってたんだ?髪がぐちゃぐちゃだぞ」
白川華怜は笑いそうになったが、こらえた。「ジョギング」
「夜食があるよ」安藤宗次は白川華怜が運動好きなことを知っていたので、鍋を指差しただけで、また図面に目を落とした。
白川華怜は夜食を持って部屋に戻り、お箏と白紙を取り出して、今夜のインスピレーションを修正し始めた。
この曲もまもなく完成する。
前の二曲とは異なるスタイルで、この曲を白川華怜は祝宴の狂騒として位置づけた。近所迷惑にならないよう、彼女は弦を押さえる力を抑え、細部は後日詰めることにした。
曲を大まかに修正し終えると、彼女はようやくスマートフォンを手に取り、アプリの問題を少しずつ解き始めた。
NO.852の白川博が、一晩でNO.598になっていたことを、誰も知らなかった。
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月曜日。
午後の下校時。
校門前。
8組の生徒たちも群を抜いて目立つ白川華怜を見かけた。
「何してるんだ?」隣席の坂本宏隆はカバンを背負いながら、8組の学級委員長を見た。
学級委員長は躊躇いながら、少し声を落として言った。「担任の先生のところに行って、白川華怜と畑野景明たちの学習方法と資料をプリントしてくるんだ。一緒に来るか?」
この言葉を聞いて、坂本宏隆は急いで前方の田中駆と中村優香を見やり、最後にこう言った。「本当に行くのか?」