彼はまだ諦めていなかった。
「木場院長の材料が足りなければ木村坊ちゃまに頼むことになるが、彼の心を動かすようなものを出さない限りは無理だ」渡辺颯は煙草の灰を払いながら首を振った。「彼が本当にそんなに接しやすい人なら、院長たちの中での清流とは呼ばれないだろう」
どの勢力にも加わらず、ただ研究に没頭している。
彼自身の業績、受賞したメダル...田中当主でさえ彼に会うと丁重に接する。
「鷹山稔のことはどうするつもりだ?」松本章文は本題を思い出した。
渡辺颯の瞳が冷たく光った。「うちの叔父さんの情報網は早いから、明日にはきっと私がチャールズと交渉したことを知るだろうな」
もし彼が予定より早く協力が始まったことを知ったら...
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安藤宗次の庭。
今日は土曜日で、木村翼は終日安藤宗次と一緒にいた。彼は足を揺らしながら安藤宗次の図面を見ていた。