283 これは彼らの時代(2)

畑野景明はまだ実験室の中にいて、出てきていなかった。

白川華怜は先に実験データを持って出てきた。プラズマによる新材料の製造に関する論文を最近よく読んでおり、畑野景明や伊田晴彦たちにも彼女が翻訳した論文を何本か送っていた。

休憩室で、木村浩は彼女が入ってくるのを見て、眼鏡越しに目を上げた。「終わったのか?」

「畑野さんが次のデータを取っているところです」白川華怜は休憩室に入り、ドアを閉めた。「装置を一回動かすのにすごく高額だと聞きましたが」

木場院長は、木村浩の次に研究費が多い人物だった。

白川華怜と畑野景明が使用する装置は、起動費用だけで5桁からスタートする。木場院長は目もくれず、後の請求書は直接木村家に送られた。

木村浩は後ろに寄りかかり、指先で彼女のスマートフォンを弄びながら、さらりと言った。「高くないよ」