上原文隆は時間がないと言って、電話を切った。
隣で、助教が不思議そうに尋ねた。「最近、あなたを食事に誘う人が多いのですか?」
上原文隆の研究室が30キロの「パラジウム」を受け取ったことは、多くの人が知るところとなっていた。
当然、高橋家の人々にも隠しきれなかった。
こんなに短期間でこれほどの実験材料を集めたことで、人々は容易にあの大野孝次のことを連想した。
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夜。
白川華怜は間宮心愛たちの研究室の引っ越しを手伝っていた。
上原文隆は昇進し、研究も予定より早く進み、彼の領域も自然と広がっていった。
研究室の引っ越しが終わると、彼女は空沢康利たちとアパートに戻り、明日の出発に備えて荷物をまとめた。
「白川、伊田、」大野純也は実験センターの入り口の階段に座り続け、白川華怜たちが出てくるのを見ると立ち上がり、彼らに視線を向けた。「君たちに申し訳ないことをした。でもあの時は私も追い詰められていたんだ。一度だけ許してくれないか?上原先生に一言言ってくれて、私をチームに戻してもらえないか?」