第33章 私が死んだら、あなたは少し幸せになりますか

「髪の毛がまだ濡れているわ」秋山瑛真は眉をひそめて言った。

仁藤心春は言葉もなく口角をゆがめた。これも彼のせいじゃないか。

「先に髪を直しに行こう」と彼は言った。

彼女は不思議そうな顔をしたが、すぐに塩浜市の有名な美容サロンに連れて行かれた。

仁藤心春はスタッフに髪を洗ってもらい、乾かしてもらったが、請求書を見た途端、息が詰まった。

隣の壁の鏡越しに、スタッフの巧みな手つきで結われたポニーテールを見つめた。

このさっぱりとしたポニーテールが、なんと...3800円?

秋山瑛真はさっさと支払おうとしたが、仁藤心春は慌てて「私が払います」と言った。

どう考えても、これは自分のために使ったお金なのだから、自分が払うべきだった。

「お前は俺に借りがあるんだ。この3800円くらい大したことじゃない。仁藤心春、一つ一つの借りは、ちゃんと覚えているからな」秋山瑛真はそう言って支払いを済ませ、仁藤心春を店の外へ連れ出した。