「あの……えっと、食事するのにいつも1フロア貸し切りにするの?」山本綾音は恐る恐る尋ねた。
「いいえ、今日は特別な日だから、フロアを貸し切ったの」温井朝岚は答えた。
山本綾音は思わず、彼の言う特別というのは、自分を見つけたことを指しているのかと考えた。
でもそう考えると、自意識過剰だと思い直した。あの時のことを思い出すと……ここまで考えて、彼女の目が一瞬曇った。しかしすぐに心に湧き上がる苦さを押し殺し、表情を平常に戻して言った。「1フロア貸し切りで食事なんて経験したことないわ。今日は初めての経験ができて、人生の貴重な体験になりそう」
「気に入ったなら、これからも度々フロアを貸し切って食事できるよ」温井朝岚は言った。
「げほっ、げほっ!」山本綾音は唾を飲みかけて咳き込んだ!
度々?
これは今後も彼女と会うという意味?
レストランのマネージャーは恭しく献立表を差し出しながら、こっそりと山本綾音を観察していた。
一体どんな女性なのか、温井若様がたった二人の食事のために1フロアを貸し切るなんて。
「何が食べたいか見てごらん」温井朝岚は言った。
山本綾音はメニューを開いたが、料理をよく見る前に、表示された金額に圧倒された。
この値段なら、一回の食事で彼女の年収が吹き飛んでしまいそうだ!
でも温井朝岚はお金持ちだから、彼のために心配する必要はないわよね。今日は人生の特別な体験として楽しもう。
山本綾音は真剣に興味のある料理を選び始めた。対面に座る温井朝岚は、熱い視線で彼女を見つめていた。
ついに……彼女を見つけた!
これまでの年月、ずっと空っぽだった心が、この瞬間、やっと落ち着きを取り戻したような気がした。
「注文は決まったわ」山本綾音が言うと、顔を上げた時、ちょうど彼の視線と合った。
その眼差しは、まるで彼女だけを見つめているかのようで、まるで彼が……彼女のことを好きなのではないかという錯覚を覚えた!
すぐに山本綾音はそんな馬鹿げた考えを振り払った。
考えるのはやめよう、だって彼は温井朝岚なのよ!
たぶん今日は、温井澄蓮から彼女のことを聞いて、会いに来ただけなのだろう。ただの再会の食事に過ぎない。
結局、海外での日々は……まぁ、全体的に楽しかったと言えるわよね!それに……