「さっきの二人を知っているの?」横にいた黒川瞬也が尋ねた。
「会ったことがあります」仁藤心春はそう答えるしかなかった。
「以前、松田さんにお会いしたことがありますが、彼は大きな家柄の出身で、軽々しく関わるべきではありません。でも、さっきの彼の話し方は……」黒川瞬也は、先ほどの松田文翔が心春に話しかけた態度が、どこか変だと感じていた。
まるで何かを慎重に扱っているかのようだった!
しかし、松田文翔のような人物は、普段は塩浜市で我が物顔で振る舞っているのに、誰に対してそんなに慎重に話すことがあるのだろうか。
「松田さんの隣にいた方が誰なのか分かりませんね」黒川瞬也はつぶやいた。
「温井卿介です」心春が答えた。
「えっ?」黒川瞬也の表情が一変した。「温井家の……あの温井次男様ですか?」