第120章 2人の男の喧嘩

「違う！」仁藤心春は素早く言った。

彼女の言葉は、本心からのものだった！

ただし、この時、彼女は温井卿介がその言葉を聞いて、表情が非常に険しくなっていることに気付いていなかった。

秋山瑛真は笑い、挑発するような目で温井卿介を見た。「温井二若様、他に何かご指摘は？」

温井卿介は重々しい目つきで温井卿介を見つめ、突然怒りを笑いに変えて言った。「君はまだ知らないようだが、その言葉は、以前私の誕生日の時に、彼女が私に言ったものだ。その言葉を聞いた時期で言えば、私の方が君より早いんだよ！」

秋山瑛真の表情が一変し、元々の口元の笑みは完全に消え去った。彼は仁藤心春の方を向き、突然冷笑して言った。「君は本当に素晴らしいね。私のことを一体何だと思っているんだ？言った言葉さえ、他人に言ったことのあるものなのか！」

「違うの、瑛真、あなたが思っているようなことじゃないの、私は...」心春は説明しようとした。

しかし、まさにその時、温井卿介は火に油を注ぐように言った。「秋山瑛真、彼女が好きになれる人間は、永遠に私だけだ。君じゃない！」

秋山瑛真の目の中の冷たさはますます濃くなっていった。温井卿介のその言葉は、まるで彼に対して、彼はただの代役に過ぎない、「卿介」の代役でしかないと、もう一度告げているようだった！

秋山瑛真は突然立ち上がり、温井卿介に向かって一発パンチを繰り出した。

温井卿介はもちろんそのまま殴られるわけにはいかず、すぐさま反撃に出た。

普段は高みにいる二人の男が、このように直接殴り合いを始めた！

現場は騒然となったが、誰も前に出て止めようとはしなかった。

一つには二人とも腕っ節が強く、格闘の心得のない者が前に出て止めようとしても、止める前に拳を食らうのが関の山だった。

二つ目は、この二人の身分だ。一般人には止める勇気などなかった！

松田文翔は止めに入ろうとしたが、自分の体格では、止めに入った結果、一ヶ月ほど病院のベッドで寝込むことになるだろうと見当をつけた。

「文翔さん、どうしましょう？」傍にいた同行者が尋ねた。

松田文翔は仁藤心春の方を見て、急いで彼女の側に行った。「お嬢さん、何か方法を考えてください！このまま二人が殴り合いを続けたら、ここが壊されてしまいますよ！」