とても大切な人

「温井卿介!」

仁藤心春は驚きの表情を浮かべた。塩浜市から千キロも離れた広島で温井卿介に出会うとは思ってもみなかった。

そして今、温井卿介の側には何人かのスーツを着た中年の男性たちが付き添っており、店の支配人や従業員たちは、彼らに対して非常に丁重な態度を示していた。きっとこれらの人々は皆、身分の高い人物に違いない。

温井卿介も彼女を見かけたようで、その視線が淡々と彼女の方へ向けられたが、すぐに顔を背け、周りの人々と何事もなかったかのように雑談を続けていた。

ところが、その中の一人の男性が秋山瑛真を見かけると、すぐに気づいて早足で近づいてきた。「秋山会長、こちらでお会いするとは思いもよりませんでした。広島にいらっしゃるなら、一声かけていただければよかったのに」

「友人と広島を観光しているだけです。純粋な旅行ですから」秋山瑛真は形式的な笑顔を浮かべた。