秋山瑛真と仁藤心春がタクシーに乗り込むのを見つめながら、車がゆっくりと走り去っていく中、温井卿介は固く結んでいた薄い唇をようやく開いた。「後をつけろ」
「はい」運転手は応じ、そのタクシーの後を追った。
温井卿介は顔を曇らせたまま、二人がタクシーを降り、広島のある大型ショッピングモールに入っていくのを見つめていた。
「二少様、これからは…」運転手は躊躇いながら尋ねた。
温井卿介は黙ったまま、ただショッピングモールを見つめ続けた。車内は不安な沈黙に包まれていた。
運転手もそれ以上何も聞けなくなった。二少様から特に指示がないのなら、このままでいいだろう。
仁藤心春と秋山瑛真はショッピングモールに入ると、「普段どんなブランドの服を着ているの?」と尋ねた。
秋山瑛真がいくつかのブランド名を挙げると、心春は言葉を失った。なるほど、これらは国際的な高級ブランドで、一着が数万円、高いものなら数十万円するのが当たり前だった。
でも、今の秋山瑛真の立場を考えれば、そういったブランドの服を着るのも当然のことだろう。
「じゃあ、普段行くブランドで服を買いに行きましょう」彼女は言い、目の端で彼が先ほど言及したブランドの一つの店舗が目に入った。
「君が選んでくれないか」彼は言った。
「普段は秘書さんが選んでるの?」彼女は尋ねた。
「時々は秘書が選び、時には自分でも選ぶけど、面倒くさがりだから、同じデザインを12着買うことが多いんだ」彼は答えた。
「…」彼女は何も言えなくなった!
そんな高価な服を同じデザインで12着も買うなんて、やはりお金持ちの考え方は一般人とは少し違う。
二人は高級ブランドの店に入り、心春はメンズウェアを選び始めた。認めざるを得ないが、秋山瑛真は完璧な体型で、高級ブランドの服は生地も裁断も一流で、いくつかの服は確かに彼によく似合っていた。
今は広島観光に来ているので、心春はよりカジュアルな服を選んでいた。
ニットのカーディガンを手に取り、秋山瑛真に合わせてみながら、「これはどう?」と聞いた。
「とてもいいね」彼は微笑みながら答えた。
彼女が一緒に服を買いに来てくれること、それは彼にとって夢のようだった。
「じゃあ、これは?」彼女は次にパーカーを手に取った。
「それもいいね」彼は答えた。