第89章 自ら出向いて噂を晴らす

芦原雅子はネット上の問題に頭を悩ませていた。

会社に直接押しかけてきて、夏目星澄にインタビューを求め、実際に金持ちの愛人になって正妻を離婚に追い込んだのかと問いただす者までいた。

さらにひどいことに、天光ジュエリーの前でプラカードを掲げて抗議し、謝罪と説明を要求する者もいた。

芦原雅子は当然、夏目星澄を表に出すことはせず、個室に待機させて嫌がらせから守っていた。

夏目星澄は外の騒ぎを一瞥し、ネット上での自分への冷ややかな嘲笑も目にした。

突然、何百万人ものファンを持っているような気分になった。

もっとも、それらは全てアンチファンばかりだったが。

しかし彼女は手をこまねいているわけではなく、この事件の黒幕が誰なのかを考えていた。

実際、この件はそれほど複雑ではなく、誰が彼女を陥れようとしているのか想像がついた。

彼女と霧島冬真の関係を知っている人間はほんの数人しかいない。

夏目家の方々は金に貪欲で、彼女が成功しているのを知れば血を吸いたがるだろう。

わざわざネット上で彼女の噂を流すはずがない。

もちろん、そんな能力もない。

次に考えられるのは、いわゆる上流社会の人々だ。

彼らは彼女を軽蔑し、時々皮肉を言うことはあっても、ネットでそんな投稿をして彼女を陥れるほど暇ではない。

つまり、この黒幕は彼女と霧島冬真の関係を知っていて、彼女を憎んでいるが、霧島冬真には逆らえない人物に違いない。

だからこの卑劣な手段を使い、人妻を誘惑したという噂を流して彼女の名誉を傷つけようとしたのだ。

霧島冬真のプライバシーは常に厳重に守られており、外部の人間は彼が結婚しているかどうかさえ知らない。

ましてや、国内一の富豪と復帰したばかりの女性歌手を結びつける者などいない。

しかし、誰も想像していないからといって、霧島冬真本人が知らないわけではない。

彼はオフィスに座り、深い黒瞳で冷たくネット上のいわゆる暴露記事を閲覧していた。

しばらくして、彼は尋ねた。「芦原雅子と天光の方々は何と言っている?」

大谷希真は事実を答えた。「ネット上で簡単な声明を出しただけです。投稿は全て事実無根で、投稿者の法的責任を追及すると言っていますが、ほとんど効果はありません。」

霧島冬真は何も言わず、何を考えているのかも分からなかった。