霧島冬真は今回の帝都での滞在で夏目星澄に会えないと思っていた。
ホテルに戻って最初にしたかったことは酒を飲むことだった。
自分を酔わせることでしか、この苦しみから逃れられないと感じていたからだ。
しかし、酒が運ばれてきたその時、携帯に一通のメッセージが届いた。
無意識のうちに画面を見た。
表示された番号を見て、彼は信じられない思いで驚いた。
なんと夏目星澄からのメッセージだったのだ!
霧島冬真は携帯と目の前の赤ワインを交互に見つめた。まだ一口も飲んでいないのだから、酔いの幻覚ではないはずだ。
そこで急いで携帯を開き、メッセージの内容を確認した。
「あなたが帝都にいることは知っています。私は帝都ホテルの1208号室にいます。会って話をしましょう。」
霧島冬真は夏目星澄が自ら話し合いを持ちかけてきたことに、興奮を抑えきれなかった。
急いで新しい服に着替え、身なりを整えた。
彼女に会うには最高の姿でいたかった。
そうこうしているうちに30分が経過していた。
霧島冬真は夏目星澄に断られたと思われることを恐れ、急いでメッセージを返信した。「わかりました。すぐに行きます。」
前回、夏目星澄は彼が同じホテルに宿泊していることを知って怒ったため、今回は別のホテルに変更していた。
ただし隣のホテルを選んだのは、彼女の近くにいたかっただけで、邪魔をするつもりはなかった。
しかし、それでも彼女に気づかれてしまったようだ。
霧島冬真は途中でバラの花束を買っていった。
せっかく夏目星澄から声をかけてもらえたのだから、バラの花でロマンチックな雰囲気を演出したかった。
霧島冬真はエレベーターで1208号室まで上がった。
部屋の前で何度も深呼吸をして、自分の感情を落ち着かせた。
そして指を伸ばしてそっとドアベルを押し、愛する女性が扉を開けるのを待った。
すぐに部屋の中から足音が聞こえ、扉が開いた。
霧島冬真は待ちきれずに手にしたバラを差し出した。「星澄、会ってくれてありがとう。このバラの花を君に...」
夏目星澄はバラを受け取り、冷たい声で言った。「ありがとう。入って。」
拒否されなかったことに、霧島冬真は少し驚いた。