霧島冬真は、夏目星澄が花井家で虐められたことを知って激怒していた。
しかし、夏目星澄が自分を心配する様子を見た瞬間、心が柔らかくなり、知らず知らずのうちに溺愛の微笑みを浮かべていた。
「大丈夫だよ」
周りの人々は、霧島冬真が夏目星澄に対してあまりにも優しい態度を取るのを見て、二人の関係を推測せずにはいられなかった。
芦原蘭は緒方諒真よりもさらにハンサムな男性が現れるのを見て、目が色めき立ち、その美しい顔から目を離すことができなかった。「すごい!私が今まで見た芸能人の誰よりもかっこいい。あの人は誰?」
隣にいた花井雪音は、彼女の夢中になった様子を見て、少し嫌そうに彼女を引っ張った。「少し控えめにしなさい。あの人はあなたが手を出せるような人じゃないわ」
花井雪音もその男性の身分は分からなかったが、その様子を見ただけで並の人物ではないことが分かった。
芦原蘭は花井雪音にそう言われて、不満そうに彼女を睨みつけた。「何よ、その言い方。私が手を出せないって、あなたなら手を出せるっていうの?まさか、誰がボーイッシュな女なんか好きになるわけないでしょ!」
花井雪音は芦原蘭にからかわれるのは一度や二度ではなかったので、もう気にしていなかった。ただ、この時に芦原蘭が花井家に余計な迷惑をかけることだけは避けたかった。
「お爺様の表情が変わったの見えなかった?あまり余計なことを言わない方がいいわよ。後で後悔することになるわ」
芦原蘭は仕方なく視線を戻し、上品な令嬢のような控えめな態度を装って、霧島冬真に良い印象を与えようとした。
その場にいた多くの人々は既に霧島冬真の身分を認識していた。
しかし、彼がここに来た本当の目的が分からず、ただ様子を見守るしかなかった。
花井正道は芦原蘭の先ほどの言葉を聞いて、すぐに恥ずかしく感じ、彼女を注意しようとしたが、彼女が霧島冬真から目を離さず、自分の視線に全く気付いていないことに気がついた。
幸い花井雪音が機転を利かせて、芦原蘭に警告を与えた。
花井正道は嫌悪感を込めて冷ややかに鼻を鳴らし、それから霧島冬真の方へ歩み寄った。
霧島冬真も花井正道の動きを見逃さず、夏目星澄の手を軽く叩いた。「星澄、私を向こうまで押してくれ」
夏目星澄は少し戸惑い、反射的に彼の後ろにいる大谷希真を見た。