浅野武樹は突然立ち上がったが、言葉が喉に詰まって出てこなかった。
自分のしたことは、そう簡単には償えないことを、彼は心の底から分かっていた。
小山千恵子は顔を横に向け、目を伏せて浅野武樹の方を見た。
「もういいわ。事ここに至っては、私たちにもう戻る道はないことは、お互いよく分かっているでしょう」
傷が癒えても必ず跡は残る。何もなかったかのように振る舞うことはできない。
小山千恵子は謝罪の言葉すら待つことができなかった。
彼女は振り返ることもなく重い革のドアを開け、足早に立ち去った。
必要なものは手に入れたのだから、この男も、この場所も、未練を持つべきではなかった。
女性の細い影がドアの向こうに消え、重いドアがバタンと閉まった。
その重い音は、まるで浅野武樹の心を打ち付けるかのようだった。
桜井美月のバレエ公演の稽古は熱を帯び、注目を集めていた。
彼女のマネージャーは大量のPR記事を買い、桜井美月の過去の評判を払拭し、奮闘する人物像を作り上げた。話題性は絶大で、チケットはすぐに完売した。
小山千恵子は療養院にいながら、遠くから桜井美月のバレエ公演の様子を見守っていた。
今は祖父の側を一歩も離れることができなかった。
最近、彼女はずっと機会を探っていた。祖父が意識がはっきりする時があれば、手術をするべきかどうか、直接本人に聞きたかった。
この決断を彼女に任せるのは、あまりにも残酷すぎた。
しかし祖父の状態は良くならず、ほとんどの時間を昏睡状態で過ごし、混沌としていて、時には彼女のことさえ分からなくなっていた。
小山千恵子の心は日に日に締め付けられ、不眠に悩まされ、次々と押し寄せる問題に、精神が崩壊しそうだった。
しかし、眠れない夜を過ごしているのは彼女だけではなかった。
浅野武樹は何度も車を療養院の門前まで走らせたが、門の外から、芝生で外気浴をする小山敏夫と小山千恵子を遠くから見るだけだった。
高慢な上位者にとって、「すみません」という言葉は千斤の重みがあり、まして最も親しい人に対して口にするのは更に難しかった。
バレエ公演は三日間続き、評判は上々で、メディアは競って報道した。結局のところ、下半身麻痺から回復したダンサーというのは、非常に注目を集める話題だった。