小山千恵子は緊張して唾を飲み込み、突然何かを思い出した。
祖父が残した薬品は揃っていて、先ほど彼女と浅野武樹は狂犬病ワクチンまで見つけていた。
ここには薬効を解くものがあるかもしれない。
小山千恵子は数歩後退し、引き出しを探り始めた。
浅野武樹はまぶたを開け、小柄な女性が慌ただしく探し回っているのを見て、思わず掠れた声で話しかけた。
「探さなくていい。もう探したが、ない」
小山千恵子は後頭部がぞわぞわし、両手を震わせながら拳を握り、素早く考えを巡らせた。
目が輝き、浅野武樹が脱いだ血に汚れた服を探り始めた。
「以前持ち歩いていたはずよ。腕時計の中じゃない?身につけてる?」
「持ってこなかった。ヘリコプターに置いてきた」
クルーズ船に来る前、浅野武樹は認めた。自分が動揺していて仕方がなかったと。