第171章 誰一人生き残れない

優子と浅野武樹を連れ去った車を追跡していくと、すぐに大野武志が人質を監禁している場所が判明した。

帝都北郊の廃工場で、そこの警備員はすでに静かに処理されていた。

しかし、この状況になっても大野武志は彼女に連絡を取る気配がなかった。

大野武志は帝都で数年間姿を消していたが、今回の部下たちは全員マムシ組の者だった。

ほとんどが戸籍のない連中で、警察も手の打ちようがなかった。

「現在、犯人との連絡は取れていませんが、工場の周りに人員を配置して包囲態勢を整えています。小山お嬢さん、何かありましたらすぐにご連絡ください!」

小山千恵子は唇を噛みながら、太鼓のように鳴る心臓を落ち着かせようとしていた。

紅霞寺の火事が優子を連れ去るためだけだったとすれば、大野武志が手段を選ばず、狂気の沙汰に至っていることを物語っている。

浅野武樹は以前、彼の一生の心血を奪っただけでなく、帝都での足場も完全に失わせた。今回大野武志に捕まったことで、命の危険も大きかった。

藤原晴子は小山千恵子の手を握り、彼女が取り乱している様子を見て、胸が痛んだ。

もし自分が愛する人と実の子供を連れ去られたら、千恵子のように冷静でいられるかどうか、考えることさえ恐ろしかった……

そのときには、きっと自分は発狂してしまうだろう。

警察署の中庭に数台のハマーが入ってきて、エンジン音が皆の注目を集めた。

車のドアが開き、黒川啓太が後部座席から降りて、しっかりとした足取りで近づいてきた。

「千恵子、大丈夫か?」

黒川啓太は小山千恵子の頭を優しく撫で、愛おしそうな眼差しを向けた。

今回、優子を帝都に連れてきて治療を受けさせることで、娘との距離を縮められると思っていたのに、このような災難に遭うとは。黒川啓太の心も痛んでいた。

小山千恵子は掠れた声で言った。「黒川さん、来てくださったんですね?」

不思議と、彼女の心は少し落ち着きを取り戻した。

血のつながりというものは、こんなにも言葉では表せないものなのだと。

黒川啓太は警察官たちを見て、厳しい表情で威厳のある態度を示した。

「大野武志とマムシ組の調査をした。今回は急いでいたため、痕跡を隠す時間がなかったようだ。毒ガスと爆弾、それに電子監視装置とビデオカメラを購入している。」