小山千恵子は気持ちを落ち着かせ、立ち上がってお茶コーナーに向かい、皆に声をかけた。
「さあ、社長室の皆さん、少し食べ物でも食べて、おしゃべりでもして休憩しましょう」
若い社員たちが次々と立ち上がり、戸田さんはオフィスのドアを閉めてから、イライラした様子で口を開いた。
「あの桜井秘書ったら、バックに頼って、いつも小山本部長を押さえつけようとして」
不満が一度口に出ると止まらなくなり、社長室の若手社員たちは皆この憤りを抑えきれなかった。
「そうよね、前回の恥をかいただけじゃ足りないの?まだ全社の前で踊りたいの?」
「こんな重要なプロジェクトなのに、浅野社長は何を考えているんだろう。お金があるからって、こんな無駄遣いをして」
小山千恵子は大きなロールケーキを手に取り、頬を膨らませながら二口ほど食べてから、淡々と言った。「その立場にいる者はその責任を負うべき。徳が位に合わなければ、いずれ大きな代償を払うことになる。あまり気にすることはないわ」
近くで数人がひそひそと話していたが、千恵子が見ると、皆言いかけて止めてしまった。
千恵子は微笑んで「何か言いにくいことでもあるの?数日オフィスを離れただけで、私とよそよそしくなっちゃった?」
皆が笑い合う中、隅にいた社員も安心したように「本部長、会社で噂になってるんですが、KRに転職されるって...」
千恵子は一瞬驚いた表情を見せ、少し意外そうだった。
噂の広がりは早いもので、やはり会社では秘密は秘密として保てないものだ。
千恵子が平然とケーキを食べ続けているのを見て、戸田さんも不安になってきた。「お姉さん、本当に辞めちゃうの?私たち、桜井の下で働くことになったら、どんな辛い目に遭うか分からないよ!」
周りの人々も不安そうに「そうですよ、結局私たちを追い出すってことですよね。住宅ローンもまだ残ってるのに...」
千恵子はコーヒーを一口飲んで、手を振りながら「ただの噂よ。私がいつ辞めるって言ったの?」
若手社員たちは喜色満面で、雰囲気は一気に明るくなった。
「やっぱりそうですよね。小山本部長は浅野社長に招かれたばかりなのに、突然引き抜かれるなんて、浅野社長の面子が立たないですもんね」