浅野武樹は遠くから千葉隆弘と小山千恵子を見つめ、近寄らずにレストランの入り口で待っていた。
朝、彼は気を取られて、重要な事を小山千恵子に伝えないまま、彼女を行かせてしまった。
千葉隆弘は冷ややかな表情でレストランの入り口に立つ男を数回見やり、立ち止まることなく、暗い表情で立ち去った。
小山千恵子はコートの襟を整え、軽く咳払いをした。「浅野社長、何かご用でしょうか?」
浅野武樹はポケットに手を入れ、眉をしかめながら言った。「今朝言い忘れたんだが、今日未明の情報で、大野武志は海都スラム街で地元の勢力に保護され、すでに水路で海都市を離れたそうだ。」
小山千恵子の心が締め付けられた。
朝はまだ優子の安全を心配していたのに、敵は自分が思っていたよりも素早く動いていた。
小山千恵子は内心の不安を隠し、車庫に向かって歩き出しながら、さらりと言った。