浅野武樹は目の前のノートを見つめ、表情が揺らいだ。
予想通り、このノートは既に小山千恵子に見つかっていたのだ。
彼女のこの焦りと怒りの様子から、内容も読んでいたに違いない。
浅野武樹は馴染みの革表紙に手を伸ばし、諦めたように笑った。
「すまない、騙すつもりはなかった。聞いたら辛くなると思って」
浅野武樹は顔を上げ、感情を抑えながらも波打つ小山千恵子の眼差しと向き合った。
「知りたいことは、全て話す。千恵子、もう何も隠さない」
男の、これまでにない従順さ、むしろ懇願するような態度に、小山千恵子は怒りを失くしてしまった。
浅野武樹は確かに以前とは違っていた。
もう無口ではなく、時には細かいことまで気にかけるようになっていた。
浅野武樹はソファの端に寄り、小山千恵子のためにスペースを空けた。