第349章 私は浅野武樹の命が欲しい

桜井美月は、浅野秀正が彼女にベッドメイトになることを提案した時の、あの冷たく陰鬱な表情をまだ覚えていた。

浅野秀正という男は、まさに狂人だった。

彼は堂々と狂気を見せていた。

浅野遥は数歩歩き、水たまりを避けながら、服についた埃を払い、嫌悪感を隠しきれない表情を浮かべた。

「桜井美月、私が浅野家に引き取ったのは、戦友の情けからだ。これは彼の臨終の願いでもあった。お前は面倒ばかり起こし、私の忍耐も寛容も既に限界だ。」

桜井美月は呆然とした表情で、聞こえているようでもあり、聞こえていないようでもあり、時折軽く笑い、何を考えているのか分からなかった。

浅野遥は眉をひそめ、最後通告を残した。

「秀正がお前に何か要求をしたようだな。彼が言うには、お前が承諾すれば、お前を守ってやるそうだ。もし承諾しなければ…」

浅野遥は冷笑した。「結果は、お前も分かっているだろう。」

扉がバタンと閉まり、ワインセラーは冷え冷えとして、薄暗い光が目を眩ませた。

桜井美月は冷たく湿った床に横たわり、寒気が体中を痺れさせるままにしていた。

この瞬間、彼女の人生は海都スラム街での日々に戻ったかのようだった。

浅野家に入ってから、浅野遥は確かに彼女を粗末に扱うことはなかった。

そしてあの頃の浅野武樹は、従兄として彼女を特別に可愛がってくれた。

それは彼女にとって天国に最も近い日々だった。

今はどうだろう。黒川芽衣と大野武志は二匹の毒蛇のように、彼女に絡みつき、血肉を吸い取っていた。

今や彼女はほぼ破産し、孤立無援で、何も持っておらず、尊厳さえもめちゃくちゃに踏みにじられていた。

彼女は犬以下の生活を送っていた。

そして浅野秀正は、冷ややかに傍観する狩人のように、彼女が息も絶え絶えになるのを待っていた。

そして彼は指一本動かすだけで、獲物を手中に収めることができるのだ。

桜井美月は体を起こし、窓から差し込む一筋の光を見つめながら、自嘲的に大笑いし、憑かれたように独り言を言い始めた。

「浅野遥、私をここに閉じ込めれば、生きた心地がしなくなって、パニックになると思ったの？でも忘れないでね、私が浅野家に入る前は、こんな暗い場所こそが私の大好きな場所だったのよ！」

かつて、彼女は栄華を望み、帝都で最も洒落た気品のある男性を恋人にしたいと願っていた。