第396章 もう愛していないはずなのに

浅野武樹は小山千恵子と彼のコートを横で掛けていて、こちらの様子には気付いていないようだった。

小山千恵子はカメラの前で固まり、かなり気まずそうだった。

彼女は一瞬目を泳がせ、冷静に頷いた。「ありがとうございます。分かりました」

スタッフも違和感に気付き、少し気まずそうに笑いながら、上手く取り繕った。

「様々なサイズの指輪を用意してあります。コート掛けの横のテーブルにありますので、お二人でお好きなものをお選びください」

後ろに並んでいたカップルは喧嘩をやめ、部屋の中を覗き込んでいた。

この光景を見て、男性は自分の言い分の正当性を見出したかのように、堂々と口を開いた。

「お前は指輪が小さいって文句言ってたけど、あの人たちなんて全然用意してないのに、ちゃんと婚姻届出せてるじゃないか」