第394章 消えることのない欲望

第一病院のVIP駐車場に着くと、あの見慣れた黒のロールスロイスクーリナンが停まっていた。浅野武樹が近づくと、ヘッドライトが点滅した。

小山千恵子はこの車をよく知っていた。浅野武樹が除隊して帝都に戻ってきた時、一緒に選びに行ったものだった。

ショールームには様々な色の高級車が並んでいたが、小山千恵子はこの一台だけを選んだ。

地味な方がいいと、そう言ったのを覚えている。

浅野武樹は二人の手荷物を受け取り、後部座席に入れると、運転席に回った。

小山千恵子は助手席のドアの前で躊躇した。懐かしくも見知らぬような感覚だった。

この助手席には何度も座ったことがある。浅野武樹がこの車で、彼女を色々な場所に連れて行き、多くの人に会い、様々な出来事を経験した。

でも、それはもう随分昔のことのようだった。