一瞬のことだが、浅野武樹の頭の中は真っ白になった。
小山千恵子の恐怖に満ちた目に、自分の姿が映っているのを見たからだ。
自分が、彼女をこんなにも怖がらせているのか……
浅野武樹は唾を飲み込み、前に掲げた両手も思わず震えながら、一歩一歩、震える女性に慎重に近づいていった。
「千恵子、怖がらないで、大丈夫だから——」
言葉が終わらないうちに、小山千恵子は驚いた兎のように急に後退した。
「近づかないで!」
乱れた足取りで花瓶の破片を踏みそうになり、細い背中が大きな本棚にぶつかり、痛みで彼女は呻いた。
浅野武樹は見るに耐えず目を細め、息を詰まらせた。
見ているだけでも痛く、心も痛んだ。
男は足を止め、苦しそうに口を開き、声は低く暗かった。
「わかった、近づかない。でも、動かないでくれないか?」
小山千恵子は背中をぶつけた痛みで我に返ったようで、目に少し冷静さが戻った。
彼女は胸を上下させながら、乱れた呼吸を必死に整えようとし、片手で机の端をしっかりと掴み、爪が食い込みそうだった。
激しい心臓の鼓動は、頭の中の耳鳴りさえも掻き消すほどだった。
小山千恵子はこの瞬間になってようやく、自分がまたパニック発作を起こしていることに気づいた。
クルーズ船での時と比べて、今回の発作はより激しいようだった。
書斎のドアを開けた時から、彼女は何か予感があった。不安な気持ちも抑えきれなくなっていた。
反射的に壁を手探りし、慌てて横の小さなテーブルランプをつけた。
暖かい黄色い光が部屋中に広がった瞬間、小山千恵子の頭の中が「ゴーン」と鳴り、目の前が暗くなった。
部屋の様子が見えた。中腹別荘の書斎とほぼ同じだった。
ソファの色と配置、窓際のイーゼルの角度と位置、すべて記憶と完全に一致していた。
しかし、これらが呼び起こす記憶は、決して楽しいものではなかった。
かつて、こんな夜に、彼女は浅野武樹に首を絞められ、いわゆる母親が藤田おばさんを死に追いやった事実を知らされた。
それは彼女の最も深い悪夢だった。
こめかみから冷や汗が一滴落ち、手の甲にぽたりと落ちた。小山千恵子はかなり冷静さを取り戻したが、足の力が抜け、体が制御できずに床に倒れそうになった。