第437章 恋愛脳になってしまった

戸田さんがまだ心の中で葛藤している間に、浅野武樹はすでに作業スペースを整理し、立ち上がっていた。

「戸田部長、お手数をおかけします。」

男性は丁寧な言葉遣いだったが、戸田さんはそれでも背筋が寒くなるのを感じた。

以前の冷面の閻魔が、今や彼女に対して謙虚な態度を取るなんて、まるで夢のようだった。

さらに奇妙なことに、浅野武樹がこのような謙虚な態度を見せていても、依然として上位者のように見え、無形の圧迫感を与えていた。

「は、はい!」

戸田さんは渋々、浅野武樹をデザインスペースの隣にある布地倉庫へ案内した。

倉庫は大きくはないが、必要なものは全て揃っていた。真珠や宝石から、様々な色の布地、数え切れない糸や絹糸まで、何でも揃っていた。

通常、この仕事は実習生に任せられていた。一方では素材に慣れ親しみ、もう一方ではデザインスタジオの作業フローに慣れるためだった。

倉庫の整理に頭を悩ませない実習生はほとんどいなかった。

戸田さんは軽く咳払いをして、沈黙を破った。「浅野社長…いえ、浅野補佐、ここが布地倉庫です。通常の手順としては、まず分類が間違っていないか確認し、その後、新しく届いた材料や使い終わって返却された材料を元の場所に戻します。」

彼女は話すにつれて声が小さくなり、心の中で非常に居心地の悪さを感じていた。

目の前の厳しい表情の男性は、かつて浅野グループで雲を翻し雨を覆すような人物だった。

今、自分が彼に倉庫の整理方法を教えているなんて…

浅野武樹はうなずいた。「他には?」

戸田さんは思考を中断され、驚いて慌てて言った。「あ、その後、在庫を数えて、あちらのコンピューターシステムに入力すれば完了です。」

彼女は慌てて顔を上げると、かつて短気で冷たい目つきだった浅野社長が、随分と穏やかになっていることに気づいた。

このような些細な仕事に対しても、眉一つ動かさず、目には真剣な表情だけがあった。

浅野武樹は頭を下げ、戸田さんが驚いた表情で自分を見ていることに気づき、彼女の頭の中で何を考えているか想像できた。

他人の目には、自分はきっと大きく変わったように見えるだろう。

浅野武樹は心の中で少し感慨深く思いながら、表情には出さない笑みを浮かべた。「わかりました。」