浅野武樹は軽くため息をつき、浅野早志の背中に置いた手が少し震えていた。
彼は胸を上下させながら、片手で早志を抱き上げ、不器用に小さな顔から涙を拭き取った。声は優しいが、かなり掠れていた。
「健一郎、お前のせいじゃない、謝らなくていい」
小山千恵子もこっそり涙を拭いたが、熱い涙は目から溢れるのを抑えられなかった。
彼女の心は複雑な思いで一杯だった。
一方では子供の脆さに心が溶けそうになり、もう一方では何故か怒りと恥ずかしさを感じていた。
怒りを感じたのは、彼らの世代の恨みのせいで、子供たちが多くの不当な災難を経験したことだった。
恥ずかしく思ったのは、子供たちには何の過ちもなく、これは親としての彼らの責任放棄だったということだ。
チームドクターが音を聞いて急いでやってきたが、廊下の角で千葉隆弘に止められた。
「ちょっと待って、まだ行かないで」
チームドクターは厳しく頷き、視線を向けると、少し驚いて口を開いた。
「浅野早志は泣いているのですか?この子が泣くなんて?」
千葉隆弘は眉をひそめた:「私もほとんど見たことがない。早志は普段、ほとんど話さないんだ」
チームドクターはまだ驚いていた:「そうですね、以前の心理カウンセリングでも、彼は無言ではなかったですが、感情の起伏はほとんどありませんでした。私たちも一体何が彼の異常な行動を引き起こしているのか、本当に分からなくなっていました…」
千葉隆弘はしばらく黙った後、長いため息をついた:「まあいいか、ここまで来たら、浅野武樹にやらせてみよう」
彼はこんなに才能のある若者を諦めたくなかった。
彼には早志を世界の最高の表彰台に立たせる能力も自信もあったのだから…
浅野武樹は早志を抱えてベッドに座り、小山千恵子はドアを閉めて男性の隣に座った。
浅野早志の長いまつげには涙の粒がついていて、とても可哀想に見えた。
浅野武樹はハンカチを取り出し、できるだけ優しく子供の涙を拭き、辛抱強く尋ねた。
「パパとママはここにいるよ、怖がることはない、もう何も君を傷つけることはできないよ」
浅野早志は少し恥ずかしそうな顔をして、鼻をすすり、小さな唇を尖らせ、ふっくらした手でハンカチをぎゅっと握りしめたが、動かさず、何かを迷っているようだった。