第461章 すでに夫婦なのに

浅野武樹は「良いところで止めておく」という道理をよく心得ており、からかうような表情を引っ込めて、真面目に説明した。

「以前、黒川啓太が怪我をした時、黒川奥様のお見舞いに行く時間がなかった。今回遠出する前に、人情としても道理としても、お見舞いに行くべきだ」

小山千恵子は一瞬呆然としたが、そこで少し後悔した。

山田おばさんに電話して黒川奥様の様子を尋ねたことはあったが、確かにこのことを疎かにしていた。

「もういいよ、もう冗談はやめて」浅野武樹は姿勢を正し、慎重に小山千恵子を地面に下ろした。「準備して出発しよう」

小山千恵子は小山優子と浅野早志の荷物を整理しながら、知らず知らずのうちに考え込んでしまった。

黒川奥様のためにドレスをデザインしていた時、彼女はまだ自分が黒川家の人間だとは知らず、自分がすぐに死ぬと思っていた。

黒川啓太と再会した後、黒川奥様に会う機会は数えるほどしかなく、ずっと距離があった。

老婦人は黒川芽衣と桜井美月を極端に嫌っており、黒川啓太が黒川芽衣を湖心島の地下室に監禁したことを知ってからは、思い切って水郷庭園に引っ越して静かに過ごしていた。

今回戻ってきたのも、黒川啓太が怪我をしたからだ。このタイミングで、唐突に老婦人に浅野遥の退職パーティーに出席するよう頼むのは、本当に言い出しにくかった。

浅野武樹が車を運転し、二人が泉の別荘の門をくぐっても、小山千恵子はまだ顔色が暗く、言葉をまとめられずにいた。

車を停め、使用人が荷物を降ろしている間、浅野武樹は軽くため息をつき、小山千恵子の髪を撫でながら慰めた。

「言いにくいなら無理しなくていい。他の方法もたくさん考えられるから、ね?」

小山千恵子はゆっくりとシートベルトを外し、首を横に振った。「じっくり考える時間はもうないわ。それに、これが今のところ最善の方法よ」

小山千恵子は車から降り、優雅で洗練された庭を見つめた。山田おばさんは手際よく使用人たちに浅野武樹が持ってきた贈り物を運ぶよう指示していたが、見慣れた場所には黒川啓太の姿がなかった。

一瞬、彼女は感慨深く、心の中に不思議と責任感が湧いてきた。

この広大な黒川家は、いつか彼女の意思に従うことになる。

これらすべてが、黒川芽衣と桜井美月が傲慢に振る舞い、あちこちで悪事を働く自信の源になってはならない。