第140章・布石

その中にどれだけの計算があったとしても、斉藤玲人の望月あかりへの気持ちは本物だった。彼が望月あかりを利用して山田進を混乱させようとしたのも事実だ。森はるかの件は今すぐには解決できないため、斉藤玲人は永陽にいる部下に電話をかけ、山田進を更に混乱させるよう指示を出した。

木村家は山田進の支援がなくても構わないが、鈴木家は絶対にその支援を得てはならない!

彼の心の中では、木村家が鈴木家を完全に抑え込まなければならなかった。そのため、この期間は望月あかりを帰すことはできず、彼女を手に入れる必要があった。

だから山田進を挑発した夜も、斉藤玲人は大人しく帰ることなく、むしろ望月あかりの部屋のドアをノックした。

望月あかりがドアを開けると、斉藤玲人は黒いシルクのバスローブを着ていた。望月あかりが着ているものとお揃いだった。

心の中での予想が的中したかのように、望月あかりは腕を組み、バスローブに身を包んでドアに寄りかかりながら尋ねた。「こんな遅くに、夜の話し相手に来たの?」

「秘密を共有しに来たんだ」斉藤玲人はデキャンタを揺らし、中の赤ワインが血液のように揺れた。もう一方の手にはクリスタルのワイングラスを2脚持ち、「ついでに良いものも分けてあげようと思って。このボトル、300万円近くするんだ。他人が一生かけても買えない家を一口で飲み干す感覚を味わってみない?信じて、この感覚はとても贅沢だよ」と言った。

山田進は望月あかりに酒を飲ませないのに対し、斉藤玲人は彼女に酒を勧める。まさに正反対だった。

望月あかりが道を開けると、斉藤玲人は入室後、再び外に出て、下階から二枚の皿を持って戻ってきた。皿にはハムとチーズが載っていた。

「教えてあげよう」二人がベッドに寄りかかると、斉藤玲人は彼女にワインを注ぎながら言った。「このハムは一口で1万円近くする。チーズも同じくらいだ。世界限定のこのグラスと一緒に、一口飲んでみて。どの味が好きか試してみて」

望月あかりは知らず知らずのうちに、かなりの量を飲まされていた。ベッドの端に頭を寄りかけ、最後の一口を飲み干し、空のグラスを窓の外の月に向かって掲げた。

豪邸、美酒、二人きりのロマンチックな時間。これらの素晴らしいものは全て、山田進なら簡単に用意できるはずなのに。でも彼は他の人にはそうしても、彼女にだけはしてくれなかった。