第115章 追跡

望月あかりはトイレに行かず、会場の外を散歩しただけだった。五分ほどで戻ってきたとき、森はるかは彼女の隣の席にはもういなかった。

その席はある財界の大物のものだった。望月あかりは名簿を見たばかりで、森はるかは「彼氏」という立場でその席に座っていたはずだが、今彼女を追い出せたのは、山田夫人としての地位があってこそだった。

どんなに愛されている花でも、正室の前では頭を下げなければならない。

突然、宮廷ドラマのような優越感を感じた。

望月あかりは胸を張って席に戻り、オークションを見守った。競売品は様々で、望月あかりの番は後半になっていた。これが会場初の絵画で、彼女も初めて公の場で絵を売ることになり、少し緊張していた。特に気に入っている作品を選んで出品した。

司会者は山田夫人の自筆画として紹介し、この作品の収益は山田夫人個人の名義で、貧困地域の小学校の給食改善のために寄付されると説明した。

望月あかりは笑いを必死に堪え、優雅で温和に見えるよう努めた。上半期は彼女自身が給食の援助を待っていたのに。

運命の変わり方は本当に早いものだ。「山田夫人」に感謝。

森はるかは彼女の右後方の席から何度も競り札を上げ、わざとらしく謝罪した。「申し訳ありません、山田夫人。先ほど山田進さんに注意されました。今後はあなたの前で無断で写真を撮ったり、写真を公開したりしないようにします。」

その言葉には後悔の色が滲み、まるで側室が正室に謝罪するかのような調子だった。望月あかりは相手にせず、そんなことは彼女の絵の一分にも値しないと思った。

芸能界の人間は演技が上手い。本当に山田進に愛されているなら、この機会にフランスへ一緒に行って、二人で暮らせばいいのに。

「冷遇された」孤独な妻の前で威張り散らすなんて。

過去に山田進と何かあったかもしれないが、結婚後はありえない。

激しい競り合いの末、この絵は望月あかりの想像を超える価格、二百三十万円で落札された。

彼女は心の準備をしていた。この絵が二十万円で売れれば山田進の面子を保てると思っていたのに、まさか零が一つ増えるとは。

寄付を撤回して金を取りたい衝動を抑え、慈愛に満ちた表情を装いながら、実際は心が血を流すようだった。二百三十万円、彼女にはそれほどの金はなかった。