第186話・恋敵

学長に別れを告げ、鉄の柵に沿って歩いていくと、隣家では中年の男性がお茶の道具を扱い、庭でゆっくりとお茶を楽しんでいた。

望月あかりは、この人が先輩なのだろうと推測した。しかし、芸大の学生は毎年多すぎて、いわゆる先輩のことは全く知らず、なぜ彼が別荘を手配してくれたのかも分からなかった。

しかも、この先輩の様子は教授クラスの人物のようだった。

彼はあまりにも集中していてあかりに気付かず、お茶を入れ終わると中へ向かって「お母さん」と呼びかけた。すると、優雅な中年の女性がケーキを持ち、幼い娘と一緒に出てきた。小さな娘は『アナと雪の女王』のエルサの青いドレスを着て、頭には輝く王冠を載せ、嬉しそうに走ってきて「パパ!」と呼んだ。

「パパ!ママがエルサのケーキを作ってくれたの、早く見て!」