第37章 男を隠してるのか？

柏木正はあらゆる人脈を駆使して、すぐにアトランティスホテルの今夜の宿泊客リストを入手した。リストには氏名、電話番号、身分証明書番号、職業まで詳細に記載されていた。

ホテルに向かう途中、藤田深志は携帯のリストを一つずつ確認し、可能性の低い人物を除外していった。最終的に範囲は十数人にまで絞られた。

アトランティスホテル。

鈴木之恵は午後ずっと寝ていて、今はお腹が空いて仕方がなかった。妊娠中は食欲が落ちているのに、すぐにお腹が空いてしまう。

こんな時ほど、食べたい物が増える。

市街地にある徐家の焼き小籠包が食べたくなった。京都府でその店だけが母の味に近いのだ。

デリバリーアプリを開くと、現在地が配達エリア外だった。数十元の追加配送料を払ってようやく注文が受け付けられた。

夕食の当てができたので、のんびりとドラマを見始めた。

電話が鳴り、デリバリーだと思って何気なく出た。

「鈴木さん、秋山泰成をそろそろ解放してもよろしいでしょうか？」

鈴木之恵はその声を聞いて一瞬固まり、慌ててドラマを一時停止した。今の声は明らかに、先ほどの電話で秋山泰成を殴っていた男のものだった。

記憶を探ってみたが、そんな恐ろしい人物と知り合いだった覚えはない。

「秋山泰成はまだ殴られているんですか？」

彼女は弱々しく尋ねた。

相手はすぐに返答した。「彼の運命はあなた次第です」

鈴木之恵は心底驚き、相手が一体何者なのか、どうやって彼女と秋山泰成の関係を知っているのか、そして何故彼女のために動いているのか考えを巡らせた。

「あの、私のことをご存知なんですか？」

相手は咳払いをして、

「それは重要ではありません。特別なご指示がなければ、秋山泰成のような老いぼれは今日のところ解放しておきます。この番号は控えておいてください。いつでもお電話いただけます。私は楓と申します。いつでもお力になります」

鈴木之恵が更に質問しようとした時には、既に電話は切れていた。

彼女はその見知らぬ番号を見つめながら、心の中で考えを巡らせた。相手は味方のようだが、一体誰が密かに彼女を助けようとしているのだろうか？

善行を施して名を残さない、現代の義侠の士なのだろうか？

疑問が山積みで、一時的に空腹のことも忘れてしまった。