藤田深志は突然顔を上げ、鈴木之恵はびくりと震えた。
「昨日、展示会に行ったのか?」
鈴木之恵は木のように固まってうなずいた。八木修二がいいジュエリーがあると言ったので、興味本位で見に行ったのだ。
藤田深志は眉間を揉みながら、またしても八木修二か、と思った。
「もっとまともな友達を作れないのか?」
彼がそう言うと、鈴木之恵の緊張していた心が急に緩んだ。他のことには触れず、いつもの論調で八木修二との付き合いを快く思わないという。
つまり、そちらの方向には考えが及んでおらず、自分の正体はまだ安全だということだ。
鈴木之恵は狐のような目を細め、「私たちは十分まともですよ。藤田社長こそ、自分を見つめ直したらどうですか」
そう言うと、彼の機嫌など気にせずに部屋を出た。
柏木正は鈴木之恵を一瞥し、気まずそうに鼻を撫でながら、藤田社長は本当に獣だな、と心の中で思った。