第72章 デートみたい

鈴木之恵は初めて彼に手を引かれて公共の場に連れて行かれ、居心地が悪かった。彼はあまりにも目立つ存在で、どこに行っても話題の中心だった。

二人が入り口に立っただけで、無数の視線が集まってきた。

二階の最大の個室が空いており、すでにウェイターがお茶を運んできていた。

「之恵、メニューを見て食べたいものはある?」

鈴木之恵は何気なくページをめくった。今は気分も良く、食欲もあった。

「全部食べたいみたい」

彼女の答えに藤田深志は驚いた。家では好き嫌いが激しく、これもダメ、あれもダメと、料理人を困らせていたのに。

今日は珍しく、何でも食べたいと言う。

「じゃあ、酸っぱいもの以外、全部一品ずつ注文しよう」

藤田深志はメニューをウェイターに返した。

鈴木之恵は驚いた。そのメニューには少なくとも数十種類の料理があり、二人でどうやって食べきれるのか。お金があるからといって、そんな無駄遣いはよくないのでは?

しかも、以前は酸っぱいものが苦手だったのに、今は赤ちゃんができてから味覚が変わり、酸っぱいものばかり食べたくなっていた。

「いくつか選んで注文しましょう。全部一品ずつだと多すぎて、食べ残しが出てしまいます」

藤田深志は眉を上げ、気にしない様子で「好きなように注文して」と言った。この程度の金額は彼にとっては些細なものだった。

鈴木之恵は再びメニューを手に取り、食べたいものをいくつか選んだ。なぜか、彼とデートしているような錯覚を覚え、まるで恋愛しているかのようだった。

注文を終えると、彼女はWeiboのトレンド入りの件を思い出し、急いで携帯を取り出して確認した。彼の言った通り、そのトレンドは削除されていた。

この時、心の中の重荷が全て消えた。

しばらくすると、ウェイターが料理を運び始めた。

藤田深志は仕事の電話を受けるため席を離れ、鈴木之恵は箸をつけずに彼を待っていた。

彼女は外食時に写真を撮ることは少なかったが、この瞬間を記念したいと思った。

料理が全て揃うと、携帯のカメラを開いてテーブルいっぱいの料理を撮影し、電話をする彼の後ろ姿も一緒に収めた。写真を拡大縮小しながら、何度も見返した。

初めてSNSに投稿したいという衝動に駆られた。

そう思い立つと、すぐに実行に移した。

後ろ姿だけなら、知らない人には誰だか分からないはずだ。