翌日、藤田深志がオフィスに着くと、すぐにガヤガヤとした騒がしい声が聞こえてきた。
藤田グループの19階は常に静かなはずなのに、誰が彼のオフィスで騒いでいるのか。その声を聞いただけで藤田晴香だとわかった。
「何を騒いでいる、朝早くから?」
藤田晴香は藤田深志の声を聞くと口を閉じた。
「お兄さん、このドレス気に入ったわ。お嫂さんに言って、新しいのを注文してもらって。これは私がもらうから」
ドレスを運んでいた作業員たちは解放されたような表情で藤田深志を見つめた。彼が来る前、藤田晴香は彼らを散々困らせたに違いない。お嬢様の気まぐれな性格は収まることを知らず、自分の言うことを聞かない人には、どんな酷い言葉も投げかけていた。
藤田深志はそのドレスに目を向けた。純白で、シンプルながら気品があり、鈴木之恵の雰囲気によく合っていた。全体的に上品で過度な露出もなく、彼の要求にも合致していた。
柏木正が今回見つけたデザイナーは良かった。彼は柏木正に賞賛のまなざしを向けた。
十分に鑑賞した後、ようやく横で理不尽な要求をする藤田晴香のことを思い出した。
「晴香、このドレスは鈴木之恵のサイズに合わせて作られている。お前は彼女より背が低くて、肩幅が広い。着ても似合わないよ」
藤田晴香は恥ずかしそうな表情を浮かべた。この前は婚約者の前で顔が大きいと言われ、今度は作業員の前で背が低くて肩幅が広いと言われた。もう少しで太っているとまで言われそうだった。
本当に実の兄なのだろうか?
彼女は名門のサークルで一目置かれる存在で、お金持ちの令嬢たちも彼女の顔色を伺って話をする。彼女だって面子があるというのに。これが広まったら、もうあの人たちの前で顔を上げられない。
藤田晴香は怒り心頭だった。
「知らないわ。鈴木之恵はきっと気にしないはず。あなたが邪魔をしているだけ。私に綺麗な服を着せたくないだけでしょ」
藤田深志はイライラを感じていた。なぜ朝早くから彼女を呼んでしまったのか、良い気分が台無しになった。
「叔父の店で何着か選んでいけ。このドレスは渡せない」
今回の言葉は口調が強く、明らかに彼女の騒ぎに嫌気が差していた。
藤田晴香は藤田深志が怒った顔をするのが一番怖かった。まるで次の瞬間にでも自分を叱りつけそうな様子だった。
彼女は怖くなって黙り込んだ。「わかったわ」